解決すべき課題
主要穀物生産の鈍化の主な原因は、それを支える現在の品種が栽培化の過程で環境ストレスに対する多くの適応能を失ってきたことによると考えられます。問題解決には、養水分欠乏などの劣悪環境でも栽培できる強靭な作物の開発が急務です。
しかし、現在の育種には、この実現を阻む3つの大きな問題があります。
問題1:野生植物などの持つ強靭なストレス耐性を利用できていない
問題2:目的に応じて作物を迅速にデザインできない
問題3:多数の遺伝子を一度に改良できない
これらの問題を解決するために、本プロジェクトでは以下の3つの課題を達成します。
課題1「作物強靭化」:
野生植物などの強靱性を解明し、作物デザインに利用する
野生植物のもつストレス耐性遺伝子のエンサイクロペディア(百科事典)を作成し、ストレス耐性作物のデザインに利用します。
- 環境適応に対して高いポテンシャルを持つ野生植物・低利用作物を材料に、ゲノム解析、非破壊生長生理解析、多次元遺伝子発現相関解析などを実施します。
- 得られた結果から、野生植物などが持つ強靭なストレス耐性の特異プロセスを解明し、これまで利用されていないストレス耐性遺伝子の作物デザインへの利用を目指します。
課題2「デジタル作物デザイン」:
目的に応じてサイバー空間で作物をデザインする
サイバーフィジカルシステム(CPS)を活用した作物デザイン技術およびCPSをサポートする高精度のオミクスデータ取得のための植物非破壊計測技術を開発します。
- 高精度のオミクスデータを利用したCPSに基づき、遺伝子ベースの生育予測モデルを構築し、表現型(作物生育)をデザインできるようにします。
具体的には、オミクスデータから作物生育を予測します(サイバー空間)。特定の環境に最適と予測された遺伝子組合せに従い作物を作製し、その生育を評価します(フィジカル空間)。得られた結果を作物生育予測モデルに反映させます(サイバー空間)。このCPSサイクルの中で作物デザインの精度を高め、最終的にサイバー空間での作物デザインの実現を目指します。
課題3「ゲノム・ダイナミック改変」:
デザインに応じて自在に作物を作製する
サイバー空間で作成したデザインに応じて迅速にゲノムを改変し、作物を実体化させるための技術開発を目指します。
- ゲノム編集技術の高度化、新規染色体操作技術の開発、野生植物・低利用作物のゲノム編集技術の汎用化、野生植物の染色体添加による新規植物の創出などを行います。
- さらに、ゲノム多領域同時改変技術、染色体導入技術を開発し、野生植物の新栽培化や作物野生種の再栽培化を短時間で可能とします。
課題4「作物有用遺伝子エンサイクロペディア」:
作物デザインのための遺伝子情報を整備する
野生植物などのゲノム情報や遺伝子の機能情報等を利用した作物デザインを推進するためのエンサイクロペディア(データ基盤)を構築します。
- 特定の作物で得られた知見を他作物に展開できるような比較ゲノム解析技術やツールを開発し、オミクス情報と統合してデータ基盤を開発します。
- 大規模マルチオミクスデータから重要遺伝子を絞り込むためのweb解析プラットフォームを開発します。